top of page

2004年設立、累計36万検査の安心の実績。
全日本トラック協会の助成金指定検査機関です。

運輸業のSASスクリーニング検査・SAS対策はお任せください。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)と交通事故:実際の24件の判例から学ぶこと

  • 執筆者の写真: 広子 木村
    広子 木村
  • 8月26日
  • 読了時間: 8分

更新日:8月27日

睡眠時無呼吸症候群(SAS)と交通事故:実際の24件の判例から学ぶこと


睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中の呼吸停止により強い日中の眠気を引き起こす疾患で、交通事故との関連性が国内外で多数報告されています。SAS患者の多くは自覚が乏しく、事故後の診断によって初めて病気が明らかになるケースも少なくありません。 ここでは、SASや睡眠疾患が関与した交通事故を扱った2本の論文をもとに、日本で実際に発生した判例を整理し、どのような責任が問われたのかを記載します。





論文に記載のSAS/睡眠疾患が関与した交通事故の判例一覧(1998年〜2020年)


【事例1】

1998年。51歳男性。会社経営者。軽ワゴン車で反対車線に逸脱しホテルに突入、清掃作業員をはね死亡させた。控訴中にSASと診断されたが、医師の意見書は検察官の不同意により証拠不採用。有罪判決。


【事例2】

2002年。56歳男性。会社員。乗用車で反対車線にはみ出し対向車と正面衝突。3人負傷。事故後に中等度〜重度のSASと診断され、予兆なく急激な睡眠に襲われた可能性があり、前方注意義務を果たせなかった疑いが残るとして、無罪判決。


【事例3】

2003年。64歳男性。無職。眠気から反対車線にはみ出し対向車と衝突。1人死亡・5人負傷。SASと診断された(診断時不明)。事故当時SASであったことは認定しつつも、眠気を自覚しながら運転継続した過失が認定され、有罪判決。


【事例4】

2005年。55歳男性。バス運転者。路線バスを運転中に反対車線にはみ出し、歩道に乗り上げ2人の歩行者をはね、1人死亡・1人負傷。事故後にSASと診断された。意識障害に気づきながらバスを停止させなかった過失が争点。意識障害の原因についての特定は無し。有罪判決。事業者の道路運送法違反および行政処分


【事例5】

2005年。55歳男性。バス運転者。路線バスを運転中に反対車線にはみ出し、対向車に衝突後民家に突っ込んだ。5人負傷。事故後にSASと診断。SASであっても責任能力はあったという判断から有罪判決。


【事例6】

2005年。39歳男性。トラック運転者。大型トラックを運転中に路肩で横転していたワゴン車に衝突し多重事故。5人死亡・3人負傷。事故後にSASと診断。SASの可能性は否定できないが、過労状態で運転を継続した影響のほうが大きいとされた。有罪判決。事業者の労働基準法違反による会社と係長(配車担当)が書類送検。貨物自動車運送事業法違反および行政処分。


【事例7】

2008年。52歳男性。バス運転者。乗客を乗せた高速バスを運転中に意識消失でハンドルから手が離れたが、乗客の男性が停車させた。事故後にSASの指摘とインフルエンザの診断。体調不良・薬の服用と事故との因果関係が不明で過労運転禁止違反での立件を断念。安全運転義務違反で略式起訴され罰金刑。事業者の道路運送法違反および行政処分。


【事例8】

2008年。45歳男性。トラック運転者。大型トレーラーを運転中に赤信号の交差点に時速50㎞で侵入し自転車をはね死亡させた。事故後に重度のSASと診断されたが、事故前からSASの可能性を会社から指摘されていた。危険運転致死で有罪判決。


【事例9】

2008年。58歳男性。トラック運転者。大型トラックを運転中に眠気を覚えて走行車線上に一時停止させ、後続が追突。そのまま20km引きずり、後続トラックを炎上させた。1人死亡。事故後にSAS診断。再発進時の確認義務違反で有罪判決。事業者の道交法違反容疑で強制捜査。


【事例10】

2009年。59歳男性。県職員。乗用車を運転中に自転車で交差点を横断中の人をはね走り去る。事故後にSASと診断。意識は保っていたとされ、有罪判決。


【事例11】

2009年。23歳男性。トラック運転者。中型トラックで走行中に路肩に停車中の車に追突し、追突された車が2人をはね死亡。事故後にSASと診断。SASの可能性を否定することはできないが、眠気を自覚しながら運転継続した過失で有罪判決。


【事例12】

2010年。60歳男性。無職。乗用車を運転中に赤信号交差点に進入し別の乗用車と衝突。事故前に重度のSAS診断あり。SASによる突発的な意識障害の可能性が認定され、無罪判決。


【事例13】

2012年。43歳男性。バス運転者。乗客45人を乗せたツアーバスを運転中にガードレールに衝突したのち、防音壁に突っ込み、7人が死亡・38人が負傷。事故後にSAS診断。事故当時SASであったことは認定したが、SASと事故の因果関係を否定。睡眠不足と疲労による眠気を覚えたまま運転を続け、事故の発生を未然に防止すべき注意義務を怠ったとして有罪判決。事業者の道路運送法違反で社長が懲役2年執行猶予5年/罰金160万円、会社は罰金160万円。


【事例14】

2012年。70歳男性。トラック運転者。トラックを運転中に渋滞車に追突。4人死亡2人負傷。事故後SASと診断。論文公表時点では審理継続中。


【事例15】

2013年。62歳男性。バス運転者。乗客37人を乗せた観光バスで追突し37人負傷。事件の8年前にSASの診断を受けていたが、1年前にSAS治療を自己判断で中断。医師や会社に虚偽報告をしていたことを指摘された。有罪判決。


【事例16】

2014年。20歳女性。動物病院勤務。乗用車を運転中に意識喪失。歩道に乗り上げ歩行者をはねた。1人死亡。事故後に特発性過眠症と診断。体調不良を自覚しており安全な運転が不可能になる予見可能性があったと指摘し、有罪判決。


【事例17】

2015年。56歳男性。バス運転者。路線バスを運転中に居眠りをして信号柱に衝突。19人負傷。事故後にSASと診断。特別重要調査対象事故として事業用自動車事故調査委員会の調査を受けた。


【事例18】

2016年。37歳男性。バス運転者。改装中の市バスで田んぼに突っ込む。事故前月に重度のSASと診断。治療予定も委託元に未報告。


【事例19】

2016年。45歳男性。農業。居眠りで対向のマイクロバスに衝突、2人死亡13人負傷。事故前から概日リズム睡眠障害で診察を受けていた。日中眠気が生じやすいことを認識していたとして有罪判決。


【事例20】

2017年。63歳男性。バス運転者。観光バスを運転中に居眠りし、路外に転落・横転させ、40人が負傷。事故後にSAS診断だが事故前の会社の検査では陰性。強い眠気を感じながらの運転継続による過失で有罪判決。


【事例21】

2018年。60歳男性。運送業。軽ワゴン車を運転中に居眠り運転で歩行者に衝突。1人負傷。事故前にSASと診断されていたが治療を怠っていた。2014年以降、追突による事故を19件起こしており、全国で初めて睡眠障害の影響を理由に危険運転致傷容疑を適用して逮捕された。その後過失運転致傷で起訴。


【事例22】

2018年。50歳男性。バス運転者。路線バスを運転中に意識消失で乗用車に追突。1人死亡4人負傷。特別重要調査対象事故として事業用自動車事故調査委員会の調査を受けた。事故の前年にSASと診断されCPAP治療中だった。事故後の検査で反射性失神と診断され事故原因と認定。視界のぼやけを自覚した時点で、意識消失の予見可能性があった過失で有罪判決。


【事例23】

2019年。45歳男性。清掃車運転者。清掃車を運転中に蛇行し始め、赤信号で交差点に侵入しタクシーと衝突。1人死亡6人負傷。事故後にSAS診断。事故前には自覚症状なしとされ嫌疑不十分で不起訴。


【事例24】

2020年。66歳男性。トラック運転者。トラックを運転中に1分間の居眠りで渋滞停止車に衝突。6台が絡む事故。1人死亡4人負傷。事故以前にSASの診断を受けてCPAP治療を指示されていたが適切な治療を怠っていた。重大な過失とされ有罪判決。



事故と判決から見えてくる4つの傾向とは

24件の事例を通じて見えてきたのは、以下のような傾向です:



①裁判になるようなケースは 事故後にSASと判明するケースが大半

論文の中では約8割が事故の後にSASと診断されており、運転者自身がSASを自覚していなかったケースが多数です。職業運転者の場合、勤務から外される不安から検査や治療を避ける傾向も一部に見られました。



② 刑事責任は「眠気の自覚=予見可能性」と「回避行動の有無=回避可能性」で判断される

SASが関与した交通事故の判決を読み解くうえで、裁判所が一貫して重視しているのは、事故の危険を「予見できたか」、そしてそれを「回避できたか」という2点です。

ここで重要なのは、「医師から診断を受けていたか」ではなく、たとえ未診断だったとしても、事故前に強い眠気や意識の混濁を感じていた、あるいは家族や職場から異常を指摘されていたなど、自分でも異常に気づける機会があったかどうかが重視される点です。

眠気を感じながら運転を続けた場合、「危険を予見できた」「止まるべきだった」として有罪に。逆に、眠気や異変を全く自覚できなかった場合や、突発的に意識を失ったとされる場合には、無罪となることがあります。

つまり、SASかどうかという診断名ではなく、「眠気をどう扱ったか」が司法判断においては重視されました。


ただし、当然に無罪であれば問題ないということではなく、事故そのものが社会的問題でありSAS対策が求められています。


③ SASと事故の因果関係が認められなくても過失が問われる

裁判ではSASとの因果関係に明言を避ける判決もありましたが、それでも「眠気を自覚しながら運転した」という事実が重く評価され、結果として有罪となる例が多数ありました。SASの有無だけでなく、特に運転者の対応姿勢が問われています。



④ 職業運転者の比率が高く、企業責任が問われた事例も

事例のうち約7割が職業運転者によるもので、過労や検査未実施を理由に、企業側が監督責任・教育義務違反で問われた事例もありました。運輸業界にとっては、組織的な健康管理体制の重要性が再確認される内容です。



まとめ:早期発見・治療につなげる仕組みづくりがカギ

有罪か無罪かにかかわらず、SASによる事故は早期に対策をとれば防げる可能性が高まります。一方で運転者本人の自覚や申告だけに頼っていては、SASを発見できないリスクがあります。

だからこそ、事故を防ぐためにも企業としてSAS対策を行い、「リスクに気づける」「治療につなげる」仕組みを備えておくことが、企業にも社会にも必要となります。 SASによる事故は、スクリーニング検査によって未然に防げる可能性があります。まずはSAS対策の第一歩として、SASスクリーニング検査の導入をご検討ください。



bottom of page