国交省「SAS対策マニュアル【簡易版】(2025年)」を整理|運輸業のSASスクリーニング検査・SAS対策実務
- 広子 木村
- 10月20日
- 読了時間: 5分
はじめに
2025年7月、国土交通省は「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群(SAS)対策マニュアル【簡易版】」を公開しました。 本記事では、このSAS対策マニュアル【簡易版】を整理し、事業者や運転者が現場で取り組みを進めやすいよう補足を加えています。

SASによるリスク
冒頭で最も強調されているのは、交通事故のリスクです。
交通事故のリスクは約2.4倍
SASでない人と比べ、SAS患者は交通事故を起こす可能性が約2.4倍に高まるとされています。
重度SASは短期間に複数回の事故リスク
重度のSASでは短期間に複数回の事故につながる可能性があるとされており、早期介入の必要性が示されています。

「SASで事故リスクが約2.4倍。重度は短期間に複数事故の恐れ (出典:https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03manual/data/sas_manual_simple.pdf)」
SASが疑われる事故が起きた場合の報告
事故が起きた場合の報告義務のポイントも整理されています。
健康起因事故としての報告
SASに起因する、SASが疑われる居眠り運転や漫然運転は「健康起因事故」として報告することが義務化されています(令和4年4月施行)。
受診状況の報告
事故前後のSASスクリーニング検査受診状況を報告することが求められます(令和7年4月施行予定)。

「事故の報告・受診状況の報告(令和4年・令和7年施行事項)」
SASとは?(仕組みと症状)
SASは、睡眠中に上気道がふさがり呼吸が止まる/止まりかける状態が繰り返される疾患です。
睡眠時に上気道が閉塞し、空気の流れが止まってしまうことで、深い睡眠が妨げられ、昼間の強い眠気や疲労が出る
大きないびき、睡眠中の呼吸停止、息苦しさ、起床時の頭重感、強い日中の眠気などが典型症状

SASと疾病との関連
SASは健康への影響も深刻ですが、SASの放置は健康起因事故の主原因になります。
高血圧、心疾患、脳卒中、不整脈、糖尿病
認知症やうつ病などの神経・心理的影響
集中力・記憶力の低下によるパフォーマンス悪化
SASスクリーニング検査とは
SASスクリーニング検査の目的はSASの早期発見と精密検査の要否を見極めることです。
手法
代表的にはパルスオキシメトリ法(指先で酸素飽和度の変動を測定)

SASスクリーニング検査機器の例
受けやすさ
医療機関に行かず、会社で機器を受け取り、装着して寝るだけ
進め方
必要性の周知 → 社内規定の作成 → 実施。適切に治療すれば運転業務は可能と明記されています
対象者
原則は全員。ただし事故・ヒヤリハットが多い者、夜間勤務者、長距離運転者、肥満、健診の異常所見の多い人などは検査の順番を優先することも有効
頻度
目安は2〜3年に1回。経過観察中や体重増加が顕著な場合は毎年
SASスクリーニング検査結果と次のステップ
スクリーニングの結果に応じて対応が変わります。 (実際の判定区分は検査機関により名称・区分が異なりますのでご留意ください)
判定区分
A=異常なし、B/C=追加判断、D(D+)=要精密検査。表記は機関により異なり、D+をEとする場合もあります
受診の流れ(SASスクリーニング検査で精密検査が必要となった場合)
外来診察 → PSG(終夜睡眠ポリグラフ検査) → 確定診断 → 重症度により治療
PSGの費用目安
保険診療3割負担で約2万円。
※注 宿泊を伴う検査になるため、通常自費の差額ベッド代が追加で必要になります。医療機関ごとにその金額は異なります。
PSG検査の重症度分類
1時間当たりの低呼吸と無呼吸の回数である「無呼吸低呼吸指数(AHI)」を重症度分類に使用します。
5未満=正常、5〜15=軽症、15〜30=中等症、30以上=重症
※注 目安として、中等症~重症の人は適切な治療が求められます。
※実際にはAHIだけでなく、睡眠の状態を総合的にみて医師が診断します。

PSG検査の例

SASの重症度分類
SAS治療と運転者への対応
治療の選択肢は複数ありますが、重症~中等症のほとんどがCPAP治療です。
CPAP(持続陽圧呼吸療法):重症〜中等症ではCPAP治療が推奨されることが多い。
マウスピース(歯科)、手術(耳鼻咽喉科・口腔外科)
生活習慣改善(体重管理、飲酒・喫煙の見直し)
運転者への対応としては、CPAP治療中の人は治療継続の有無を点呼や健診で確認し、適切に治療されていれば運転可能と整理されています。

CPAP治療の例
SASと診断された運転者への対応:点呼と教育
SASと診断されCPAP治療を行っている運転者に対しては、AHIのチェック・CPAP治療の実施の継続的な確認が求められます。治療が適切に行われていれば運転業務は可能です。
点呼時
睡眠時間の確認、CPAP装着指示がある場合は使用状況も確認
教育
健康管理と良質な睡眠の重要性を繰り返し周知し、事故リスク2.4倍という数字と「検査→治療→フォロー」の流れを結びつけて伝える
まとめ
SAS患者は交通事故リスクが約2.4倍に高まる。重度SASでは短期間に複数事故も
教育→スクリーニング検査→医療→フォローの流れを社内規定として確立することが重要
適切に治療されていれば運転業務は可能。社内規定に基づいた継続運用が事故防止につながる
参考リンク

