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なぜ睡眠時無呼吸症候群(SAS)は交通事故を引き起こすのか?

  • 執筆者の写真: 広子 木村
    広子 木村
  • 8月5日
  • 読了時間: 6分

― 病態と運転リスクの関係の整理―

交通事故のニュースで「居眠り運転」という言葉が出てくることは珍しくありません。 そのなかでも、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が事故に関与していたケースがたびたび報道されています。 では、なぜSASになると交通事故を起こしやすくなるのでしょうか? 本記事では、SASの症状と、それが運転にどのような影響を及ぼすのかをわかりやすく解説します。


1. SASとはどんな病気か?

SASは、睡眠中に呼吸が何度も止まる、あるいは弱くなることで、深い睡眠が妨げられる病気です。「無呼吸」または「低呼吸」が1時間に5回以上起き、かつSAS特有の日中の眠気などの症状がある場合にSASと診断され、その回数により重症度が軽症~重症としています(日本呼吸器学会:睡眠時無呼吸症候群)

特に多いのが「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」というタイプで、空気の通り道(上気道)が物理的につぶれてしまうことで呼吸ができなくなります。

肥満、あごの形、舌の位置、鼻づまりなど、原因はさまざまですが、睡眠中に何度も呼吸が止まることで、血液中の酸素の量が低下し、それを補うために脳が繰り返し覚醒反応を起こします。この繰り返しによって、睡眠の質が著しく損なわれます このように慢性的に睡眠が分断されることで、以下のような症状が現れます。

  • 大きないびきや無呼吸

  • 起床時の頭痛やだるさ

  • 日中の強い眠気、意識喪失

  • 集中力・記憶力の低下

  • 夜間の頻尿

  • 高血圧・心疾患など循環器系の合併症

なかでも重大な交通事故に密接に関係するのが「日中の強い眠気、意識喪失」です。



2. SASになるとなぜ日中に強い眠気が生じるのか?

睡眠時無呼吸症候群(SAS)では、眠っている間に何度も呼吸が止まる、あるいは極端に弱くなる状態が繰り返されます。


「無呼吸」や「低呼吸」が起きるたびに、血液中の酸素の量が低下し、その酸素不足を補おうと心拍数をあげ、脳も身体も一時的に覚醒します。これは「覚醒反応」と呼ばれ、呼吸を再開させるための生理的な反応です。

問題なのは、この覚醒反応が一晩に何十回も、時には100回を超えて繰り返されることです。本人は「ぐっすり寝たつもり」でも、実際にはそのたびに脳や体が目を覚まし、深い睡眠がとれていない状態が続いています。


そうすると、7〜8時間睡眠時間をとっていたとしても、実際は細切れに何度も睡眠が中断している状態になります。 SASの患者は、このような睡眠の妨げが毎晩続くため、脳がしっかりと休めず、疲労がどんどん蓄積していきます。 結果として日中の強い眠気や集中力の低下、注意の持続困難といった症状が慢性的に現れるようになります。



SASによる眠気は、**突然数秒間意識を失うような「マイクロスリープ(微小睡眠)」**を引き起こすことがあります。これは本人に自覚がないまま一瞬眠ってしまう現象で、気づいたときには「記憶が飛んでいる」「何をしていたか分からない」と感じることもあります。

当然運転中に起きれば極めて危険であり、事故の直接的な引き金となり得るのです。 従業員の中に「日中の強い眠気」や「注意力の低下」が気になる方はいませんか? こうした状態が見られる場合、早期のスクリーニング検査が事故防止に直結します






3. SASが運転能力に及ぼす具体的な影響


● 反応速度の遅れ

SASによる注意力の低下は、安全判断・ブレーキ操作の遅れに直結します。 例えば、時速80kmは秒速22メートル。わずか1秒でも反応が遅れれば、たとえ適正な車間距離を保っていたとしても、前方車両のブレーキに対応しきれず、衝突に至る可能性があります。


● 突然の“マイクロスリープ”

SASの人は、ほんの数秒だけ意識が途切れる「マイクロスリープ(微小睡眠)」を起こすことがあります。マイクロスリープが信号や歩行者、自転車が頻繁に現れる市街地でおこると重大事故に直結する危険性があります。 たとえば、時速50kmで走行している場合、2秒間のマイクロスリープで車は約28メートルも進んでしまいます。この時間で横断歩道や交差点に差し掛かっても、気づくことができず、事故に至るおそれがあります。


● 集中力の持続力が低下

SASの患者では、集中力が持続せず、運転中に「ぼーっとする」状態になることがあります。信号や歩行者が少ない夜間の市街地や、高速道路のような単調な環境では、注意力が低下したまま運転を続けてしまうリスクが高くなります。 このような状況下では、小さな見落としが重大な事故につながる危険性があるのです。



4. SASが大きく注目された事故例


 SASが重大事故の一因となる可能性が指摘された事例のひとつに、2012年4月に発生した関越自動車道でのツアーバス事故があります。

午前4時40分ごろ、高速走行中のバスが防音壁に衝突し、7名が死亡、38名が負傷する大きな事故となりました。報道によれば、運転者には睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがあり、SASと居眠り運転の関係性、およびそれによる事故の危険性が注目を集めました。なお、のちに裁判ではSASは認定されたものの、SASと事故の直接の因果関係は否定され、睡眠不足と疲労による眠気を覚えたまま運転を続けたことによる注意義務違反による有罪判決、および事業者に対して道路運送法違反で社長が懲役2年執行猶予5年および罰金、会社も罰金となっています。

それでも、この事故は、夜間や長距離の運行といった業務環境において、SASのリスクを社会に強く印象づけた出来事でしたこれを契機に、SASと交通事故の関連性に対する関心が高まり、運輸事業者における健康管理の重要性や、スクリーニング検査の必要性が行政文書でも明記されるようになりました。


なお、SASが関与したとされる事故はこの1件に限られず、報道や公的調査資料でも複数のケースが紹介されています。これらの事例は、単なる体調不良では済まされない“医療と安全の接点”として、今後も企業や社会全体で向き合う必要があるテーマとなっています。



5. SASは自覚しづらく、見逃されやすい疾患


SASは、本人が症状を自覚しにくい疾患です。夜間に何度も無呼吸が起きていても自分では気づかず、日中の眠気や集中力の低下があっても、「疲れのせい」や「年齢の影響」と誤認されることが少なくありません。そのため、医療機関を受診しないまま過ごしてしまうケースが多く見られます。こうした背景から、SASは発見が遅れ、結果としてリスクが放置される状態になりやすい病気だといえます。 しかし、SASと診断され、適切な治療(たとえばCPAP療法)が行われれば、眠気や注意力の改善が期待でき、事故リスクを実質的に下げられることは、多くの臨床研究で裏付けられています。自覚しづらいからこそ、運輸業では企業が主体となって早期発見に取り組むことが求められています



おわりに


SASは、睡眠中の無呼吸により脳の休息を妨げ、日中の眠気や判断力の低下を引き起こす疾患です。これは反応の遅れやマイクロスリープなどが生じ、運転中の重大な事故リスクを高める要因となります。 本人に自覚がないことも多く、周囲からの観察や自覚症状だけでは見抜くことは困難です。 運輸業では会社として、交通安全の観点から定期的なSASスクリーニング検査を制度として導入することが対策として有効です。

スクリーニング検査の実施方法や導入支援について、ご相談を希望される方はお気軽にお問い合わせください。




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