【判例に学ぶ】SAS事故の瞬間に運転者に何が起きているのか:証言から見る「眠気」とSAS対策
- 広子 木村
- 9月1日
- 読了時間: 5分
更新日:10月22日

運転中の眠気による交通事故は、誰もが身近に感じるリスクですが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の場合、「眠気を自覚しないまま」事故に至ることがあります。 この記事では、実際の事故判例と運転者の証言をもとに、「眠気を感じない」ことの本当の危険性を解説します。
SAS事故の特徴と、なぜ“居眠り”が危険なのか
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に気道が繰り返し塞がることで呼吸が断続的に止まり、深い睡眠が確保できなくなる疾患です。結果として、夜間にしっかり寝ているつもりでも十分な休息が取れず、日中に強い眠気や集中力の低下が現れます。
この“眠気”が運転中に生じた場合、重大な事故につながることがあります。
当NPOは、「全ドライバーにSAS検査を行う」体制を導入している企業を支援しています。 それらの企業で実施されたSASスクリーニング検査では、全体の約11.5%が精密検査を要するという結果が出ています。この11.5%は運輸業にとっては決して無視できない割合です。一方でSASの危険性は認知されてきているものの、ドライバー本人に「事故を起こすような眠気」であることが自覚されにくい点が大きな課題です。
※全ドライバーにSAS検査を行う体制を取る企業の検査統計はこちらをご参照ください。
運転者の証言に見る、SAS事故の“前兆なき眠気”
SASが起因したとされる交通事故の判例では、事故後の取り調べや裁判の中で、運転者が次のような証言をしています。
実際の事故で運転者が証言した言葉
※すべての証言が司法判断で認定されたわけではありません。かっこ内の数字はこちらの記事の事例番号に対応しています。 |
これらはいずれも、事故が起きる“直前”に意識が朦朧としていた、あるいは意識がない状態であったことを示しています。 中には「くしゃみをした瞬間に意識が遠のいた」「眠くはなかったのに突然落ちた」といった証言もあり、事前の眠気を感じていない「発作」や「意識喪失」に近い状態であったと考えられる例もあります。
「眠気を感じていなかった」証言が意味する本当の危険性
これらの証言で特筆すべきは、「眠気を感じたあとで寝てしまった」ではなく、「眠気を感じていない」という点です。
一般的には、「少しずつ眠くなってウトウトして…」という過程を経て事故が起きるように思われがちですが、SASに起因した事故では、運転者が意識を失うまで自分の状態の異常に気づけていないケースがあります。
つまり、「眠気を感じていない=安全」ではなく、“眠気を感じていないこと自体が危険”という構造があるということです。
事故を未然に防ぐために必要なSAS対策とは?
✅SASスクリーニング検査は、事故の“前”に気づく手段
判例を通じて、職業運転者でもSASと診断されたのは事故の「後」であることも多く、逮捕後、あるいは弁護側の鑑定によって初めてSASが判明しています。
運転者本人も会社側も「SASかもしれない」という疑いを持たないまま運転業務が行われ、事故が起きてからようやく異変が認識されています。
SASスクリーニング検査は、そうした“見えないリスク”に事前に気づくための効果的な手段です。問診やアンケートなどから判明する自覚症状のあるケースだけでなく、SASスクリーニング検査機器を通じて、睡眠障害の兆候があるかどうかを可視化できるため、自覚の有無を問わずSAS事故を防ぐきっかけになります。
✅“本人任せにしない”SASスクリーニング検査の仕組みづくりがポイント
SASに関わる交通事故では、「眠気や体調不良の自覚がなかった」という運転者と、「自覚はあったが対処できなかった」という運転者がいますがどちらも事故のリスクが高いことに変わりはありません。
特に職業運転者は、多少の不調を感じても簡単に休めず、業務を優先してしまうケースがあります。またSASは本人が異変に気づけないことも多く、自覚症状だけで対応するのは困難です。
だからこそ、本人の感覚や申告に頼らず、SASスクリーニング検査など、客観的なリスク把握の手段を企業が仕組みとして取り入れることが重要です。
「見えないリスク」を可視化することが事故防止の鍵
SASによる事故は、客観的に見れば明らかに危険な状態であっても、運転者自身にはその自覚がなかったというケースも少なくありません。異常に気付かないまま運転を続け、結果として重大事故につながるおそれがあります。
こうした「見えにくいリスク」に対して、企業としてどのように備えるかは、安全管理上の重要なテーマの1つです。事故防止、そして運転者自身の健康維持のためにも、まずは一度SASスクリーニング検査の実施をご検討ください。